その280万円を取り戻せ
大川は、ごく普通の会社員だ。特別に贅沢な暮らしをしているわけでもなく、かといって困窮しているわけでもない。ただ、老後のことを考えると、少し不安があった。年金だけでは足りない気がする。だから数年前から、少しずつ投資に興味を持つようになった。
そして半年前。大川は投資詐欺に遭い、280万円を失った。
警察には相談した。担当者は丁寧に話を聞いてくれたが、「捜査には時間がかかります」と言われた。銀行にも連絡した。しかし、一度振り込んでしまったお金は、もう戻ってはこなかった。
280万円。大川にとって、それは決して小さな金額ではない。
大川は、それでも「もう終わったこと」として、前を向こうとしていた。
「仕方ない。授業料だと思うしかない。」
そう、自分に言い聞かせながら。
けれど夜、ふとした瞬間に、頭の中で同じ言葉が繰り返される。
本当に、もう取り戻す方法はないのか。
眠れない夜。大川はスマホを手に取り、検索窓にこう打ち込んだ。
「投資詐欺 お金 取り戻す方法」
検索結果の上のほうに、あるサイトが表示された。
「投資詐欺の被害金、取り戻せる可能性があります」
「まずは無料相談から」
サイトには、こんな言葉が並んでいた。
・投資詐欺、被害金回収に強い専門チーム
・相談実績1,200件以上
・「諦めていたお金が戻ってきました」という利用者の声
・「まだ諦めないでください」
一度は「もう終わったこと」と自分に言い聞かせていたはずなのに、大川の指は止まらなかった。何度も、何度もページを読み返した。
心のどこかで、大川は思っていた。
怪しい気もする。でも、もし本当だったら……
さあ、ここで、あなたに聞きたい。
▼【判断する】
押した瞬間、カウントダウン開始。
あなたなら、このサイトを見つけたとき、どうしますか?
大川は、結局——申し込んだ。
話を聞くだけなら。
自分にそう言い聞かせて。
担当者は、いきなりお金の話をしなかった。それどころか、驚くほど親身に話を聞いてくれた。
「それは本当に大変でしたね」
「まだ諦める必要はありません」
その言葉に、大川は少し救われた気がした。警察や銀行の、事務的な対応とは違う。自分の話を、ちゃんと聞いてくれる人がいる——そう感じてしまった。
さらに、振込先や送金日時、相手とのやり取りについて細かく聞くなど、こうした被害の相談には慣れているように感じた。
そして数日後、担当者から連絡が来る。
「大川さんの資金を追跡できる可能性があります」
ただし、本格的な調査には着手金として5万円が必要だという。
大川は考える。
280万円が戻ってくる可能性があるなら、5万円くらい……
▼【判断する】
押した瞬間、カウントダウン開始。
あなたなら、どうしますか?
大川は、5万円を振り込んだ。
数日後、担当者から連絡が来る。
「資金の流れを確認できました」
「海外の口座に移されている可能性があります」
担当者は、送金経路や海外口座について説明し、調査結果らしき資料も送られてきた。
もっともらしい説明。専門用語。複雑な図。
大川には、それが本当なのかどうか判断できなかった。
ただ、一つだけ確かなことがあった。
「調査は進んでいる」
大川には、そう見えた。
そして、担当者が続ける。
「さらに追跡するには、追加調査費として12万円が必要です」
12万円。
ここでやめたら、あの5万円も無駄になる……
その心理が、静かに大川の背中を押していた。
▼【判断する】
押した瞬間、カウントダウン開始。
あなたなら、どうしますか?
大川は悩んだ末、12万円を支払った。これで支払った金額は、合計17万円。
本当に大丈夫なのか。そんな不安は、まだ心のどこかに残っていた。
しかし数日後、担当者から連絡が来る。いつもより少し明るい声だった。
「大川さん、進展がありました」
「280万円のうち、約230万円を回収できる可能性があります」
大川にとって、初めて具体的な金額が提示された瞬間だった。
230万円。本当に戻ってくるかもしれない。
そう考えた瞬間、大川の中で、これまで感じていた疑いよりも期待の方が大きくなっていった。これまで支払った17万円も、無駄ではなかった。
しかし、担当者の話には続きがあった。
「ただ、回収した資金を大川さんに戻すためには、最後の手続きが必要です」
そして告げられた。
「回収手続きに、25万円が必要です」
これまでに支払った金額は、5万円+12万円=17万円。さらに25万円を払えば、合計42万円になる。
でも、230万円が戻ってくるなら……
大川の判断が、大きく揺れる。
▼【判断する】
押した瞬間、カウントダウン開始。
あなたなら、どうしますか?
最終問題が終わったところで、はじめて明かしたいことがあります。
あなたが今、大川と一緒に体験してきたもの——それには、名前があります。
▼【その正体は?】
「被害回復詐欺」
投資詐欺で280万円を失った大川。
その「280万円を取り戻したい」という気持ちにつけ込まれ、5万円、12万円、25万円と、さらにお金を要求されました。
すべて支払っていれば、追加被害は42万円。
「お金を取り戻す」という言葉を使って、さらにお金を奪う——これが被害回復詐欺です。一度詐欺の被害に遭った人が、「被害金を取り戻せる」などと持ちかけられ、再び狙われるケースもあります。
ところで、気づいたでしょうか。
最初は15秒。次は12秒。10秒。そして最後は8秒。
問題を進めるごとに、あなたに与えられた時間は、少しずつ短くなっていきました。
これは単なるゲームの演出ではありません。
詐欺師は、しばしば「考える時間」そのものを奪おうとします。
「今なら間に合います」
「今日中に手続きしてください」
「今やめると、これまでの調査が無駄になります」
「この機会を逃すと、回収できなくなります」
こうした言葉によって、人は焦らされます。そして焦るほど、冷静な判断は難しくなっていきます。
今回のタイマーは、その感覚をほんの少しだけ、疑似的に体験してもらうための仕掛けでした。
4つの問いへの回答をもとに、あなたの「守る力」を集計してみましょう。
あなたの合計 __ pt / 70pt (自動計算)
60〜70pt:かなり冷静に判断できた
40〜59pt:危ない場面はあったが、回避できた
20〜39pt:相手の術中に入りかけていた
0〜19pt:被害に遭っていた可能性もある
そして、最後にもうひとつ
実は、このゲームには——
A・B・C・D以外の選択肢がありました。
それは、
▼【もう一つの選択肢を見る】
「【判断する】ボタンを、一度も押さない」
守る力100pt
目の前に選択肢があると、私たちはその中から「正解」を探そうとします。
でも、ときには——
決めない。払わない。その場から離れる。
それも、自分を守るための大切な選択です。
今回の本当の「守る力」は、ボタンを押す前に立ち止まることだったのかもしれません。