すべては、担当者のひと言から始まった
投資の失敗というと、株価の暴落や仮想通貨の急落を思い浮かべる人が多いかもしれない。でも私の場合、いちばんの遠回りは、もっと静かで、もっとお洒落な場所から始まった。
舞台は、六本木からほど近い高級住宅街。そこで待っていたのは、ジャケット姿の物腰の柔らかな担当者だった。そして決め手になったのは、彼が口にしたひと言だった。
「毎月2万円が、60年後には1億円を超えます」
友人から聞いた「投資の話」
出会いは2010年か2011年ごろ、友人との食事の席だった。当時の私に投資経験と呼べるものはほとんどなく、あるとすれば、少ない資金でFXをやって溶かした程度のもの。株も、仮想通貨も、投資信託も、まだ一度も手に触れたことがなかった。
そんな私に、頭が良く、物知りで、株投資をしていた友人が、世間話のなかでふと「今、こんな投資をしている」と話してくれた。
その友人がやっているなら、きっと良い投資なんだろう。
何の投資なのかもよくわからないまま、私は二つ返事で「やる」と答えた。
麻布十番の高級住宅街へ
数日後、六本木で待ち合わせをし、友人と一緒に歩いて向かったのは麻布十番の高級住宅街だった。高い木々に囲まれた邸宅、天井まで届く透明なガラス、洒落たロビーに飾られた絵画、ほのかに漂う上質な香水の香り。まるで隠れ家のような空間だった。

ふかふかのソファに腰を沈め、担当者を待つ間、私はどこか場違いな高揚感に包まれていた。今思えば、この非日常的な空間も、私が「すごい投資なのかもしれない」と思い込んでいった理由のひとつだったのだと思う。
たった2万円が1億円に?
名刺交換のあと、担当者はまず私にひとつ質問をした。
「このグラフの中で、一番利益を出しているのはどれでしょう?」――今でも鮮明に覚えている、15年以上前のやり取りだ。

「同じ金額を、同じ期間、定期的に積み立てた」**という条件で比べるなら、答えは ③である。
続けて説明されたのが、0歳から加入できるという海外の積立型保険だった。毎月2万円を運用すれば、60年後には1億円を超えるという。
複利という言葉すら知らなかった当時の私は、**「毎月2万円で1億円」**という数字にすっかり心を奪われていた。
高級住宅街のソファに座りながら、自分はもうお金持ちの仲間入りをしたような気分になっていたのだから、今考えると我ながら笑ってしまう。
今振り返れば、知識のない私は、まさに「ネギを背負ったカモ」のような状態だった。
「海外の生命保険」──知らなかった手数料の重さ
契約した商品は、イギリス領マン島に本社を置く海外の生命保険会社が扱う、積立型の保険商品だった。
当時の説明では、運用利回りは年15%以上。毎月一定額を積み立てれば、10年後、20年後には大きな資産になるという話だった。さらに、最初の半年にはボーナスがつくとも聞かされた。
一方で、途中解約をすると元本割れする可能性があるという注意点もあった。私のケースでは、クレジットカード払いの手数料2%以上に加え、販売・管理にかかる各種手数料も重なり、実質的に年6〜7%ほどを支払っていた。
今なら、この「年6〜7%」がどれほど大きな負担かがよくわかる。しかし当時の私は、その手数料が将来の運用結果にどれほど響くのかも、途中解約のリスクの大きさも、まったく理解していなかった。

ただ、担当者が語る「10年後にいくら、20年後にいくら」という未来の数字ばかりに目が向き、その日のうちに契約書にサインをした。
ボーナス期間が終わって、見えてきた現実
契約してから数年が経過した。最初の1〜2年は、ボーナス期間ということもあり、あからさまに資産が増えていた。しかし4〜5年たつと、ちょいちょい元本割れするようになった。
そんなとき、紹介してくれた友人から「アクティブファンドの成績が悪いから、運用担当のトレーダーを入れ替えるみたいだよ」という話を聞いた。それでも状況は好転せず、約10年が経過しても、元本割れは続いたままだった。
人生が変わる出会いと、撤退を決意
そんなときに出会ったのが、リベラルアーツ大学・両学長のYouTubeだった。当時はまだアニメーションもなく、文字と線だけのシンプルな動画。
その中に「絶対にやってはいけない投資」というテーマがあり、いくつか紹介されている中の一つに、まさに私がやっていた海外生命保険投資が挙げられていた。理由は明快で、「とにかく手数料が高すぎる」というものだった。
約10年間、誰にも言えずに抱えてきたモヤモヤが、この一言でストンと腑に落ちた瞬間だった。私はすぐに、この投資からの撤退を決意した。
皮肉にも、この失敗が私を救った
実は、この海外生命保険投資には、ひとつだけ救われた点があった。
資金が長期間ロックされていたおかげで、後に年利24%をうたう詐欺話に巻き込まれた時、ここに入れていた資金だけは被害を免れ、結果的に全財産を失わずに済んだのだ。
もしあの資金が自由に使える状態だったら、私は間違いなく全額を投じ、そのまま失っていただろう。皮肉なことに、一番の”失敗”が、もう一つの”失敗”から私を守ってくれたことになる。
もちろん、こんな形の分散投資をおすすめするつもりはない。
ただ結果だけを見れば、「一つにすべてを賭けない」ことの大切さを、私は最悪の形で学んだ。
遠回りしたからこそ、たどり着いた答え
振り返れば、ポンジスキームによる詐欺被害、海外生命保険を通じたアクティブ運用、FXやCFD、信用取引といった短期売買──私は本当に遠回りをしてきた。
もし一番最初に両学長のYouTubeに出会えていたら。そう思うことは、今でもある。
ただ、これだけ遠回りをして、お金を失ってきたからこそ、今は自分の中でひとつの答えが出ている。
「自分が理解できないものには、投資しない」

どれだけ高い利回りを提示されても、どれだけ魅力的な話に聞こえても、仕組みを自分の言葉で説明できないものには手を出さない。
もしあなたが、今まさに投資に悩んでいるなら
もし何かの縁でこの記事を読んでくださっているあなたが、今まさに投資に悩んでいるなら、一度立ち止まって考えてみてほしい。
「自分は、この投資がどういう仕組みで、なぜお金が増えるのかを本当に理解しているだろうか?」
分からないものには、無理に手を出さない。遠回りをしてきた今だからこそ、心の底からそう思う。
最後に、私自身も投資を学ぶきっかけになった、リベラルアーツ大学・両学長が紹介している**「やってはいけない投資」**を紹介して、この記事を終わりたいと思う。
👉 投資でぼったくり商品を買わないためのまとめ(2019年)
※誤解のないように言っておくと、この海外生命保険そのものが詐欺というわけではない。ただ、少なくとも今の私なら、投資先として選ぶことはない。
