高額教材の誘惑
「明太子を、スパイシーキャビアとして販売したら、アメリカで爆売れした」
この一文を見た瞬間に、これだと思った。
迷わずマーケティング教材の定期サブスクに加入した。毎週YouTubeで動画が更新され、ビジネスを体系的に学べるというものだった。全部見終わるのに約半年かかる、なかなかの大ボリュームだ。土曜日の撮影前、ファミレスで勉強したのを覚えている。
10年以上前にも、似たようなことがあった。香港オフショアの教材を買い、現地で口座を開設しようというものだった。結局、分厚い資料だけが手元に残り、香港には足を運ばなかった。
今回も結局、頭に残ったのは『明太子はスパイシーキャビア』、それだけだった。

高橋ダンさんとの出会い
2021年ごろ、高橋ダンさんのYouTubeを見はじめた。ウォール街出身、自らファンドを立ち上げるという華麗な経歴だった。当時の彼の動画は具体的で、日本株・CFD・FXで何を買い、何を売っているかをリアルタイムで発信していた。
「試しに真似してみよう」——そう思ってトウモロコシのCFDを購入した。人生初のコモディティ取引だった。リスク管理の「リ」の字も考えていなかったが、数日後に利益が出た。
これが、すべての始まりだった。
この成功体験で「彼は本物だ」と確信し、高橋ダンさんの発信を毎日追うようになった。気づけば、完全な「信者」になっていた。高額教材に飛びついたときと、同じ構造だった。念のために言っておくが、高橋ダンさん自身は何も悪くない。問題は、当時の私に一切の主体性がなかったことだ。
口座開設「IG証券」
高橋ダンさんの動画を見ながら、少しずつ利益を積み上げていった。
ある日、「木材が面白い」という話があった。ところが、私が使っていたGMO証券では木材の取引ができない。そこで高橋ダンさんが使っていたIG証券に口座を開設し、当時の総資産の40%以上を一気に入金した。
IG証券では、取引の幅が別次元に広がった。牛肉、コーヒー、ガソリン、アメリカ個別株の信用取引——GMO証券では触れることすらなかった世界が、目の前に広がっていた。
ただし、問題があった。
最低取引ロットが大きく、エントリーするたびに強烈な緊張が走った。上がるか、下がるか。まるで丁半博打のように、ひりつく感覚だった。今思えば、あれは投資ではなくギャンブルだった。

勝ちも負けも、動く金額がじわじわと大きくなっていった。仕事中もチャートが頭から離れない。アメリカのインフレ加速と金利上昇が重なり、指標発表のたびに相場が荒れに荒れた。心が、ずっとざわついていた。
ポストプライムへの加入
「もっと良い情報があれば勝てるはずだ」——そう思い、高橋ダンさんが設立したコミュニティ「ポストプライム」に有料で加入した。
そこには多くのインフルエンサーのトレード情報が次々と流れてくる。それを見ながら、IG証券でコモディティ・国債・CFDなど、GMO証券でFX、GMOコインで仮想通貨、楽天証券で旧NISA——仕事が終わるたびに高橋ダンさんのYouTubeとポストプライムを確認する日々。気づけば、画面を追いかけることが生活の中心になっていた。
ただ、結果は「勝ったり負けたり」の繰り返しだった。資産はまったく増えず、むしろじわじわと減っていく。それでもこの時点では、まだ致命的なダメージはなかった。
しかし、これは嵐の前の静けさだった。
NASDAQ空売り
2022年10月ごろのことだ。
天然ガスなどのコモディティで負けが続き、そのマイナスを一気に取り戻そうとした。焦りが、じわじわと判断力を曇らせていた。
そして私は、NASDAQを空売りした。
ウクライナ侵攻を機に世界的に金利が上昇し、大手テック株を中心とするNASDAQは長らく下落トレンドにあった。「まだ下がる」——私はそう確信していた。当時の水準は13,000前後。
ところが、私の思惑とは正反対に、NASDAQはじりじりと上昇を始めた。
普通なら、ここで損切りする。 しかし私は違った。含み損を薄めたい一心で、ナンピンを繰り返した。損失はどんどん膨らみ、ロスカットラインをずらし、追加入金してはまたずらす——その悪循環から、抜け出せなくなっていた。
ロスカット発動
ある夜、経済指標の発表があり、相場が大きく動いた。
IG証券からメールが届いた。
「ロスカットが発動しました」

え。え?
直前に追加入金したばかりで、一時的にロスカット設定を解除したつもりでいた。しかし実際には解除されておらず、そのまま決済されていた。画面を見た瞬間、頭が真っ白になった。
ただ——もしあの夜、ロスカットされずそのまま保有し続けていたら、私は確実に退場していた。証拠金が底をつき、それだけでは済まなかった可能性もある。
皮肉な話だが、あのロスカットに救われた。
それ以来、IG証券の口座は封印した。今も、開けていない。
この失敗から学んだ、二つのこと
① リスク管理の完全な欠如
総資産の40%以上を、短期〜中期の「投機」につぎ込んでいた。これは投資ではなく、賭けだ。コツコツと小さな勝ちを積み上げ、最後に一気に溶かす——いわゆる「コツコツドカン」を、教科書通りに体験した。
② 主体性のなさ
高額教材を買い、成功している投資家の表面だけを真似した。なぜそのトレードをするのか、自分で考えたことが一度もなかった。「この人が言うから」——それだけが、行動の理由だった。それは投資ではなく、丸投げだ。
誰かの判断を借りても、痛みだけは自分が引き受けるしかない。それに気づいたのは、退場寸前になってからだった。
退場寸前で気づいた、投資の掟
この失敗の後、ある記事で読んだ言葉が刺さった。

「NASDAQは、絶対に空売りするな」
そうなのだ。NASDAQもS&P500も、長期的には上昇し続ける。短期的な下落局面があっても、必ず戻してくる。歴史が、それを証明している。
痛い目を見て、ようやくわかった。
だから私もこのブログで、声を大にして言いたい。
NASDAQ・S&P500は、絶対に、絶対に空売りしてはならない。

